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2000/09/02

田中功起展

「未確認物体」

art115_01_1「Cakes(Silver)」お見事な陳列ケース。横にはリトグラフのレシピも

■捕獲された「遊星からの物体X」みたいだった。冷蔵ケースに入ったホールケーキのことである。ケーキを会期中に熟成させ、クロージングで食べるのだそうだ。中央から切り分ける常識を戸惑わせる形。FRPにケーキピースがくっついているのだが、フェイクの土台を、生のケーキが覆いかぶさり浸食しているようにも見える。変わるものと変わらないもの。土台はいくつもつくれる。ケーキも繰り返しできるが、同じものは二度とない。そのつくりものの中からハミ出るリアルが本来のアートだったなあ。

■と考えつつ、パイ投げの形もこんなふうに平べったいなと思う。聞けば“クルマにケーキがベチャっとついたイメージ”なんだそうだ。クルマにパイを投げるスピードまで想像。コイツは生き物っぽい。夜中に動いているに違いない……。

■コーラの液体がこぼれ出る映像は、「こんなに入ってるわけないだろっ」とツッコミたくなるほどいつまでも流れ出ている。映像をつないでループしているわけだが、ヒスパニック系ブルースのような音楽がかぶさり、場末感を醸し出している。南部の酒場に現れたカウボーイの風情。映画の、“終わらないエンディング”みたいだ。

■まだ大学を卒業したばかりの田中は、Vシネ系ビデオの場面のループや、コンセントとコンセント、蛇口と蛇口をつなげたりする「堂々巡り」といった作品を制作してきた。当時は「出口なし」の世界を笑いで超えたいと思っていたそうだが、それはCMや映画などにすでにある。今はその出口のない状況の内側に入って、揺り動かすようなものをつくりたいのだそうだ。それはポリティカル・コレクトのような社会的アイロニーをもつ作品のように、言葉ですべて言いきれるものではない。出て来るものを楽しんでつくる。制作では言葉に置き換えるが、そこからとりこぼれるところ、とりこぼし方を大事とする。そして、たくさんの人に話して反応を見るそうだ。作品には、見る側を妙に気にならせるセンスがある。

■最近、ものを見る視点を変えるというアートの見方にギモンを抱き始めた。さんざん書いてきて申し訳ないが、言葉で「ほら違って見えるでしょ」とナビゲートすると、大抵の人はそれに従ってしまうことを、展覧会現場での調査で実感している。生きていて見たことのない唐突なものと出会いたい。彼の作品はアートにしかできない、アートとしかいいようのなさが楽しかった。

「田中功起展」
2000年9月2日(金)〜30日(土)
ナガミネプロジェクツ
中央区銀座7-2-17南欧ビル4F
(JR・地下鉄有楽町駅または新橋駅徒歩5分。コリドー通り沿い)
11:00-19:00 日月休
TEL.03-3575-5775

words:白坂ゆり

art115_01_2マチュレイシオン(熟成)という名のパウンドケーキ。ピールコンフィとドライフルーツ入り。職人さんの技とのコラボレーション

art115_01_3「moving still」反復は笑いの基本技だったりして…

art115_01_4手前から「cakes(Pearl)」「cakes(Blue)」国産車のボディの色なんだそう

art115_01_5ケーキをふるまうオープニングの模様も流れている。切り分ける田中クン。

2000-09-02 at 02:22 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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