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1999/04/29

Vol.09 石橋義正(Yoshimasa Ishibasi)


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現在、キュピキュピ(石橋義正、木村真束、分島麻美、江村耕市)として制作したヴィデオ作品『キュピキュピ1++』を京都国立近代美術館にて行われている展覧会「身体の夢 ファッション or 見えないコルセット」(~6月6日まで。東京都現代美術館に巡回。)に出品している。近現代の女性の身体を飾ってきたファッションの変容と、身体というものに対して既成の枠を越えてアプローチされた美術作品が並ぶなか、一際、異彩 を放っているのが『キュピキュピ1++』だ。監督した映画《狂わせたいの》も全国縦断上映中。作品のエンターテイメント性と独特のリズムは彼のいう日本文化を象徴するものなのかもしれない

●お決まりの質問なんですが、なぜ美術の道に進んだのですか?
■僕の実家は京友禅の仕事をしていて、子どもの頃から美術工芸というものが自分の生活環境のなかにあったんです。で、「絵がうまい」とか周りからも云われて、自分でももちろん描いたりするのは好きだったから、高校は美術科で日本画をやっていました。でも、本当の理由はもっと別にあって、映画監督になりたかったんです。小学校3年生のときに『スター・ウォーズ』を7回も観ました。あの映画を観て、自分でも映画をつくりたいと思ったんです。だけど、どうすれば映画監督になれるのかがわからなかった。美術スタッフという仕事を足掛りにすることができるのではと思い、美大に受験することにしました。僕の在籍した構想設計コースという専攻には、ヴィデオの機材があって、入るときには何を勉強するのかはわからなかったけれど、映像をつくることが出来るかもしれないというのが魅力的に思えて、受けたんです。

●すでに映画監督デビューを果たされたので、目的は達成されたわけですね?
■映画『狂わせたいの』をストックホルム国際映画祭に正式出品しましたし、全国で劇場公開も続けていますから。ただ、『狂わせたいの』の場合はフィルムにこだわってつくったものの、16ミリだったことや、60分間に編集されていたことがネックになって、大きな海外の映画祭に出品ができませんでした。次の映画をつくる予定もあるのですが、やはり時期やフォーマットを調整しなければと考えています。今、衛星チャンネルやケーブルテレビなどを通して、映画を自宅で観る人が増えていると思います。でも、僕は映画は映画館でみるものだと思っているので、映画作品としてつくったものに関しては劇場上映を原則と考えています。それに、国際的な映画祭には出品前にオンエアされたものは、出品できなかったりします。日本は逆輸入されてはじめて認められるというようなところがあります。これは否定できない事実で、多くの人に観てもらおうとするなら、手段として考えるのは当然のことだと思います。また、映画祭は映画をつくっている人たちの晴れ舞台。赤ジュウタンを歩き、カメラのフラッシュを浴びる、これは映画をつくっている人の味わえる、別な意味での醍醐味でもあると思います。

●今回は美術館での展覧会にヴィデオ作品『キュピキュピ1++』が出てますよね。
■僕のやっていることが、美術なのかどうかは、自分自身ではあまり意識しながらやっていないんです。こんなことをうかつに云うと誤解されるかもしれませんが、発表する場所によってプレゼンテーションのしかたが異なるように思うんです。作品自体をどこかのジャンルやカテゴリーのなかにあてはめるということではなくて。例えば、美術館で観ればアートだし、映画館でみれば娯楽になる。観る人の構え方が変わると思います。『キュピキュピ1++』もいま出している展覧会用につくったものではありません。僕自身は、どこで発表するからといって作品を変えるわけではないです。シテュエーションが変わることで、人間のほうが制御されるんですよね。でも、すべての可能性を試しておかないと、やりたいことに近づけないように思えるので、本当にいろんなことをやっていますよ。

●プレゼンテーションのしかたについては?
■『キュピキュピ』にしても、厳かに美術館ではやり(笑)、オルタナティヴな場所でやるときには‘歌謡ショー’とか、パフォーマンスもまじえながら上映したり。ショーは、そこにこないと体感できないものです。映画はやっぱり映画館。映画は映画館に出かけて行かないとリアルには体験できないように思うんです。人類総オタク化に向かうことは避けたいです。商業ベースに考えていく、ということとはまた別な次元で、お金を払って観てもらうというのは重要なことだと思っています。しかし、展覧会に出すこともいいのですが、出品することが目的のようになっていくと、広がりがなくなってしまうので駄目なんじゃないかと思っています。

●映像作品を表現手段とする理由についてきかせてください。
■映画監督に子どもの頃からなりたかったのも理由だし。性格的に絵画や彫刻作品をつくって発表していくようなスタイルは考えられないです。飽き性なんで、じっとしていられない。みんなでワイワイやるようなほうが合ってるんです。それに、映像にはいろんな要素を盛り込んでいけるってこともあります。特に「人」。役者のセンスや考え方が反映されてくるんですよ。自分が今まで持ちえなかった‘感覚’が作品のなかに入り込んでくる。つくっていて、やっぱり楽しいです。編集などは実は独りでやる作業も多いんだけど、撮影の現場は楽しいですよ。

●ところで、作品名にもなっている‘キュピキュピ’ってどういう意味ですか?
■意味はないです。擬音語ってわけでもないし。

●石橋さんの作品はエンターテイメント性が強いですよね。
■エンターテイメントにこだわっているわけではないんです。だけど、メッセージを強烈に前面に出しているような作品は自分では抵抗があってつくれないです。見せられたときに楽しいものがいいと思うので、わざとメッセージは消しているところもあります。触覚的に面白いもの。理由に裏付けできないような面白さをつくりたいです。脈絡もないのに、人が感動してしまうとか(笑)。ロンドンに留学したときに、現地の人がもっている日本観のようなものに愕然とさせられたんです。日本のイメージは黒澤映画や仏教とかオタク文化としてとらえられていた。でも、自分が体験してきたものは、例えば建築にしたってお寺のような大げさな建物なんかではなくて、ごちゃまぜの折衷文化。もっとアジア的なものが環境のなかにある。アメリカナイズされたものが駄目だとも思わないし、実際にあるミックスされた面白さを、自分で映画をつくってみせたいと思ったんです。そのときに、70年代の歌謡曲とかもどうしても入ってきて。これも日本文化だと思うんですね。ちゃんと残していかなければならないものと考えています。

●どうして作品をつくるんでしょう?
■自分でみたいものは自分にしかつくれないからかな。

●これから手がけたいことかありますか?
■いつも言っていることなんですけど、‘宇宙ステーション’です。宇宙ステーションにディズニーランドをつくろうとは思わないけれど(笑)。これも皆が楽しめるようなものにしたい。でも、僕はW・ディズーニーという人を 崇拝しています。彼は、自分が死んでも、自分の作品が育っていくシステムを生きている間につくったのです。アーティストは作品や名前は残るけれど、それ以上に発展していくことはないでしょ。僕も‘完結’しないものをつくって発展させ続けることができたらいいなと思っています。  

映画の上映スケジュール

岡山:
会期/1999年4月17日(土)~4月23日(金) 
  ※18日(日)は休み
会場/シネマ・クレール(tel.086-232-2281)
時間/夜9:00pm~レイトロードショー連日1回上映

京都:
会期/1999年4月29日(木・祝)~5月2日(日)
会場/京都国立近代美術館
 (tel.075-761-4111)
時間/
4/29(木・祝)
 12:00~、13:30~、15:00~(1日3回上映)
4/30(金)
 12:00~、13:30~、15:00~、16:30~、
 18:00~(1日5回上映)
5/1(土)
 12:00~、13:30~、15:00~(1日3回上映)
5/2(日)
 12:00~、13:30~、15:00~(1日3回上映)

東京:
会期/1999年5月1日(土)~5月31日(月)
会場/アップリンク・ファクトリー
 (渋谷区神南1-8-17 横山ビル5F
  tel.03-5489-0750)

※6月上旬より 京都みなみ会館、神戸アートビレッジセンターにてリバイバル上映決定。
※6/25(金)26(土)キュピキュピ2ndライブ開催。京都カフェ・アンデパンダンにて。


words:原久子

eye10_01「キュピキュピ1++」歌謡ショー(1999)

eye10_02「キュピキュピ1++」エレクトQ(1999)

eye10_03「キュピキュピ1++」エレクトQ(1999)

eye10_04「キュピキュピ1++」エレクトQ(1999)

eye10_05「キュピキュピ1++」スペスペ2(1999)

eye10_06「キュピキュピ1++」フィッシュヘッズ(1999)


石橋義正(Yoshimasa Ishibasi)

1968年 京都市に生まれる。
1993年 ロイヤル・カレッジ・オブ・アート映画科(ロンドン)に交換留学。
1994年 京都市立芸術大学大学院修了。
ヤノベケンジ、曽根裕などのヴィデオ映像を多数制作。
1997年 劇場用16mm映画《狂わせたいの》を監督。ストックホルム映画祭正式出品。
1999年 「身体の夢 ファッション or 見えないコルセット」(京都国立近代美術館、東京都現代美術館)

1999-04-29 at 09:15 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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