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2008/09/24
グラッドストーン・ギャラリー「ジャン=リュック・ミレーヌ展」
鳥を待つ
NYから塩崎浩子さんのレポートです。
そのポエティックな美しさから、ジャン=リュック・ミレーヌ(Jean-Luc Mylayne)の作品は、一見なにげない「野鳥のいる風景写真」のように見える。しかしそこには、一瞬しかないシャッターチャンスのために鳥を待つ長い時間が刻み込まれている。
1946年生まれフランス在住の写真家ジャン=リュック・ミレーヌは、30年以上ものあいだ、鳥を撮影し続けている。今回の作品は彼が2年間のレジデンスプログラムにより、アメリカ・テキサス州のフォートデイビスに滞在して撮影したもの。アメリカで撮った初めてのシリーズである。過去の作品には緑濃い美しい風景の中で小鳥がたわむれる姿を撮ったものもあったが、今展の14点では、テキサスの荒涼とした自然風景が小さな鳥の存在をより鮮やかに際立たせている。
撮影には気の遠くなるような長い時間がかけられている。周到に撮影場所を決め、何週間あるいは何か月もの間、彼の用意したアングル/フレームの中へ鳥たちがやって来るのを待ち続ける(なので非常に寡作である)。たとえば、タイトルに「Janvier Février Mars 2007」とあるのは、2007年の1月から3月のあいだ、撮影のタイミングを待っていたというしるしだ。といっても、ミレーヌはいわゆる「決定的瞬間」を撮るわけではない。貴重で珍しい鳥を記録するわけでもない。彼が撮るのはスズメやツグミ、コマドリといったごく普通の小鳥たちの、ごく普通の生態である。
荒漠とした土地の枯れた1本の木の枝のてっぺんに1羽の鳥がとまる。かわいらしくもりりしく、まるで世界のすべてを掌握する王のようだ。細い足で枝をしっかりつかみ、吹く風に小さなからだを少しふくらませる。数秒後にはもうそこから飛び立っているかも知れない。えさもない、仲間もいない、なぜそこにやってきたのか。鳥は「ものを思う」ことができるという。見渡すかぎり何もない場所で、羽を休め、ちょっと首をかしげて遠くを見つめる姿は、何かを考えているのかなと思わせたりもする。そして、世界中を旅し、ある場所に滞留し、いつ来るかも知れない鳥たちを「待ち続ける」ミレーヌの行為も、作品を撮影するという意味以上にどこか哲学的な印象を与える。
ミレーヌの眼はいつも画面の中央、あるいは下や隅の小さな鳥の姿に向かって、すさまじいスピードと集中力でフォーカスされている。まわりの風景は時にぼやけ、小さな鳥のさらにその細部へとレンズが瞬時にせまっていく。長すぎる時間と一瞬とが、広大な風景と鳥のかすかな羽のふるえとがひとつの画面に収斂されている。ミレーヌの眼はいつしか鳥の眼となり、鳥はミレーヌ自身となる。そこに写っているのは作家(人間)のポートレートでもある。
ジャン=リュック・ミレーヌ展は10月18日まで開催。
Words: 塩崎浩子
2008-09-24 at 01:30 午前 in ワールド・レポート | Permalink
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