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2007/11/21
ニューアーク美術館「INDIA: Public Places, Private Spaces – Contemporary Photography and Video Art」
NYから、塩崎浩子さんのレポートです。
中国に次いで世界第2位の人口を持ち、現在、驚異的な速度で経済的、社会的変革を遂げつつある巨大な国、インド。移民の多いニューヨークで暮らすようになって、日本にいた時よりもずっとこの国が身近に感じられるようになった。でも、そのインドのコンテンポラリー・アートはというと、これまでまとめて見る機会がなかったように思う。二ュージャージーにあるニューアーク美術館(The Newark Museum)の「INDIA: Public Places, Private Spaces – Contemporary Photography and Video Art」(2008年1月6日まで)は、現代インドの写真とビデオアート100点あまりを紹介する、北米初の大規模な展覧会。出品作家は28人、そのうち60〜70年代生まれの新しい世代のアーティストが16人含まれている。
Atul Bhalla 《I Was Not Waving But Drowning》 (part of a series of 14), Color Print, 2005. Courtesy of the artist
展示は街の人々や出来事をとらえたモノクロのフォトジャーナリズムに始まり、政治や社会的なメッセージを扱った作品、そして個人のアイデンティティーを見つめる作品へと進んでいく。
彼らのまなざしは通りや街を徐々に離れ、家族や身近な人物、そして自分自身へと向けられるようになる。自分は一体どこから来たのか? 自分とは何か?外国へ渡った移民として、女性として、社会的マイノリティーや弱者として、それぞれの居場所から発せられるメッセージは、過激さや過剰さとは対極の、内省的で静かなものが多い。最後の展示室にあったAtul Bhallaの14枚の連作写真(写真上)は、目を閉じて、抗う様子もなく静かに一歩一歩、水の中に「溺れて」いくアーティスト自身の姿だ。インドのある通りの様子を撮ったJitish Kallatの巨大なパノラマ写真(写真下)では、街を走る多くのオートリキシャと、画面中央でぽつんと一人立って公衆電話をかける彼の姿とが対置されている。
Jitish Kallat 《Artist Making Local Call》 2005, digital print on vinyl mesh, 95 x 411 inches. Courtesy of the artist
毎晩、ゴミ捨て場の廃品を拾い集めて働く二人の10代の少年を追ったGigi Scariaの映像作品に見入ってしまった。真っ暗な道の上で、彼らが拾った地図を広げて、いろんな場所を指差しながら楽しそうに話す姿が映っている。彼らは一生のうちにその場所へ行くことができるのだろうか。世界との距離は果たして縮まったのだろうか?
Vivan Sundaram《Re-take of Amrita - Sisters with ‘Two Girls’》2001, black and white photograph, 15 x 12.2 inches, courtesy of Sepia International, New York
展覧会のタイトル「公共の場所、個人の空間」は、インドの現代社会における、特に若いアーティストたちの心の有りようをうまくあらわしているように思えた。それは単純に、彼らの表現や興味の対象が公共の場所から個人の空間へと物理的に移動したということではなく、パブリック(=外側)とプライベート(=内側)、あるいは富と貧、伝統と変革、ローカルとグローバルといった対立するものどうしが交錯し、せめぎ合う社会において、彼らがそれぞれの方法でもって、自分と世界との距離を何とかはかろうともがいている姿ではないだろうか。その混沌や衝突がうねりを起こし、静かな波のように見ている私に押し寄せてきたのだった。
2007-11-21 at 01:58 午後 in ワールド・レポート | Permalink
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