Manufactured Landscapes（人造の風景）

NYから、塩崎浩子さんの8月のレポートです。

　ニューヨークで6月に開催された、人権をテーマにした国際映画祭「Human Rights Watch International Film Festival」の出品作品に、カナダの写真家エドワード・バーティンスキー（Edward Burtynsky）の中国での制作風景を追ったドキュメンタリー「Manufactured Landscapes（人造の風景）」があった。バーティンスキーは、産業社会によって変容させられた世界各地の風景を大型のフォーマットで撮り続けている写真家。2006年にはブルックリン美術館で同タイトルの個展が開催された。

Edward Burtynsky《Manufacturing #18》 Cankun Factory, Zhangzhou, Fujian Province, China　Photo courtesy of Zeitgeist Films

　映画は中国のとある工場内のシーンで始まる。目線ほどの高さでカメラが右から左へゆっくりと動いていき、黄色い制服を着た人々が何かを組み立てているのだが、そのラインが永久に終わらないかのように長い。タイトル前にこの映像が数分間続き、観客はここがとてつもなく巨大な工場であることに気付かされる。数千人はいるであろう従業員が工場の前で整然と並ぶ様子を撮った作品（写真上）は最初CGか合成かと勘違いしたほどだ。
　中国最大の鉄鋼メーカーBao Steel、世界最大のアイロン工場（従業員2万3000人）、スポーツ靴メーカー（同9万人）、完成すれば世界最大規模となる水力発電ダム「三峡ダム」の建設現場など、被写体となる現場のスケールの巨大さは、この国の急激かつ大規模な産業発展の象徴だ。さらに、世界中から船で大量に運び込まれるコンピューターなどの廃品のリサイクル現場を撮った作品もある。

Edward Burtynsky《Nickel Tailings #34》Sudbury, Ontario, Canada　Photo courtesy of Zeitgeist Films

　その壮大なスケールと対照をなすように映画で描かれているのが、こうした現場で暮らすあるいは働いている人々の姿だ。部品に針で穴を開ける、小指の先ほどの部品に銅線を切って巻き付ける、小さなノズルに水を通す検査などの細かな作業を一日じゅう行う工場の人達。辺り一面のプラスチックや金属のがらくたからリサイクル可能な素材を一つずつ拾い集める中年の女性。うずたかく積まれた廃品の山で遊ぶ子供達の笑顔。三峡ダム建設のために政府の要請で自分達の家を取り壊す周囲の村の人達。木や草がほとんどない乾いた骨のような灰色一色のダム周辺の村で、小さな女の子ががれきの上に立ったままお碗で麺をすすっている。富や発展と引き換えに傷つけられたこの風景が、彼女にとって「子供の頃に見た景色」になるのだろう。
　 この映画はあからさまに政治的メッセージをふりかざしたり、センセーショナルに環境破壊の実態を暴こうとしているわけではない。ことはそう単純ではないからだ。「よりよい生活」を追求する私達の日々の行為の代償としてもたらされた結果と、そこに生きる人々の姿を新たな「風景」として撮り、その現実をむしろ淡々と観客に伝えている。巨大な炭鉱の石炭の山々の様子はまるで古い山水画のようだし、真っ赤に汚染された川がふと美しく見えるのは何と皮肉なことだろう。かつての豊かな自然の風景に代わって増え続ける人造の風景に私達は何を見るのか、大きな問いが投げかけられている。

Edward Burtynsky 《Three Gorges Dam Project, Feg Jie #5》 Three Gorges Dam Project, Yangtze River, China　Photo courtesy of Zeitgeist Films


★「Manufactured Landscapes」（2006年、監督ジェニファー・バイチウォルJennifer Baichwal）は全米を巡回中

http://www.zeitgeistfilms.com/film.php?directoryname=manufacturedlandscapes

Words: 塩崎浩子