ルイーズ・ネヴェルスン＠ジューイッシュ美術館

NYからライター塩崎浩子さんの６月のレポートです。

私が初めて、そして最後にルイーズ・ネヴェルスンの作品を見たのは1992年、ウイルデンスタイン東京でのことだから、もう15年も前になる。にもかかわらずその作品のことをはっきりと憶えているほど、祭壇のようにそびえ立つ真っ黒なその彫刻は、私にとって鮮烈なものだった。

Louise Nevelson 《Mrs. N’s Palace》 1964-77, painted wood, mirror, 140 x 239 x 180 in.  The Metropolitan Museum of Art, New York, Gift of the artist, 1985 (1985.41).  © Estate of Louise Nevelson / Artists Rights Society (ARS), New York.  © 1987MMA, photo by Lynton Gardiner.

アメリカでおよそ30年ぶりとなるルイーズ・ネヴェルスン（Louise Nevelson, 1899-1988）の大規模な回顧展「The Sculpture of Louise Nevelson: Constructing a Legend」が、マンハッタンのジューイッシュ美術館（The Jewish Museum）で開催されている（9月16日まで）。初期から晩年の作品まで、彫刻、ドローイング、版画など66点が展示されている。

Louise Nevelson 《Dawn’s Wedding Feast》 1959, painted wood.  © Estate of Louise Nevelson / Artists Rights Society (ARS), New York Photo by John Aquino. 今展のために、12の美術館やコレクターの所蔵品によって再度組み立てられた作品

ネヴェルスンは戦後アメリカ美術を代表する彫刻家の一人。絵画からスタートし1940年代から彫刻を発表し始めるが、1950年代後半、様々なオブジェを木箱の中に詰め、スプレーで黒や白の単色に塗り、縦横に高く積み重ねた大型作品で一躍注目を集めるようになる。というのも、彼女が使う素材はすべて木、それも街角やゴミ捨て場で拾った廃品、材木置き場や家具工場のスクラップなど、いわゆる「がらくた」だったからだ。

ネヴェルスンの手によって拾い出されたそれらの「がらくた」は新しい命を吹き込まれて蘇り、聖堂や祭壇に向かい合った時のような荘厳さを放っている。整然と積み上げられた木箱の一つ一つに、様々なモノが—もとのがらくたから抽象的形象へと変貌を遂げ—キュビスム絵画のごとく配置されている。塗られる色は黒、白、金色などだが圧倒的に黒が多い。ネヴェルスンは、黒という色を一日の終わりを思わせる、あらゆる色の中でもっとも高貴で優雅な色と考えていたという。

Louise Nevelson 《Sky Cathedral Presence》 1951-64, wood, paint, 122 1/4 x 200 x 23 7/8 inches.  Collection Walker Art Center, Minneapolis. Gift of Judy and Kenneth Dayton, 1969, 1969.5.1-34.  © Estate of Louise Nevelson / Artists Rights Society (ARS), New York.

今展では代表作「Mrs. N’s Palace」が展示されている。Mrs. Nとは近所の子供たちがネヴェルスンに付けたあだ名で、まさに彼女の家、彼女の人生そのものを表わしたような幅６メートルの大型作品。床に鏡を張り、外側も内側も天井もおびただしい量の黒い彫刻やオブジェで埋め尽くされている。幾何学的／有機的な様々のパーツで構築された、未来の機械を見ているようでもある。

アトリエでの制作風景を追った映像が会場で流れていた。「私が認める唯一のリアリティーとは、作品を通じての私自身のリアリティーなのです」。色鮮やかな民族風ローブを身にまとい、幾重ものつけまつ毛に濃いアイメイク、細巻きの煙草をくゆらせながら一言一言力強く語るその姿は、彼女の彫刻そのままに、気高く美しかった。