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2007/05/25
urban interface|berlin
かないみきさんから今月のベルリンレポートです。
「アート」が美術館という箱の中から飛び出して久しい昨今。ここベルリンでも、家の外へと一歩踏み出せば、何処からともなくアートが顔を出す。それは時には、人の頭のようなものを肩から提げて歩く人や仮想の広告幕、不思議なオブジェクトをつけて走る自転車であったりする。
先月15日から始まったパブリックアートプロジェクト、「都市のインターフェース | ベルリン」は、 私たちが普段から使っているコミュニケーション・ツール、携帯電話やインターネットなどを主な手段として、パブリックとプライベートの概念を検証しようとする試みである。アートが都市空間におけるパブリックとプライベートを交錯する。開催地は、ギャラリーやデザインショップが立ち並ぶファンシーなエリア、ミッテと、そこに隣接するも全く対照的なエリア、失業者や移民が多く生活するヴェディングとゲズントブルネンの3地区。プロジェクト・マップに従い点在する展示を求め、ミッテ地区から始まるアッカー通りをゲズントブルネン地区へと向かうと、周辺の建物や雰囲気、そこを行き交う人々のあからさまな変化を体感することになる。これら異なる地域を関連づけたことや、デジタル・コミュニケーションによって別地域からもアプローチできることは特徴的だ。
キュレーターのスザンネ・ジャシュコ氏は、リサーチとも定義するこのプロジェクトについてこう語る。「ベルリンに限らず、パブリックスペースがコンテンポラリーアートの制作やプレゼンテーションのために、プラットフォームとして使われることが増えていますが、これらの都市空間で、作品を出現させるにあたっての条件やルールは、はっきりとはしていません。パブリックスペースは想像以上に統制されています。ですから私たちは作家とともに、それぞれの作品の制作や設置に対して、どのようなルールが存在するのか、そしてどのような調整が必要なのかといったことを判断していきました」。
地域の行政や住民、アートにおける関係に、マニュアルなど存在しない。役所には作家やキュレターにアドバイスをくれる部署などももちろんない。ひとつの許可を取るためにあちこちで盥回しにさせられた。そんな様子は、このプロジェクトが運営するウェブサイトのブログで読むことができる。これも、今後同じようにパブリックスペースを使う作家や組織のために、オープンにしようというジャシュコ氏の提案だ。紆余曲折を経て実現したこのプロジェクトの中から、いくつかの作品を紹介したい。
“The Head” Laura Beloff Courtesy Daniela Friebel
可動型オブジェクトによって知られるフィンランドの作家、ローラ・ベロフの「The Head」は、カメラ付き携帯電話が内蔵された人形の「頭」。それは誰もが所有することができる。番号は公開されていて、メッセージが送られてくるとその瞬間にシャッターが押され、画像が送り返されるという仕組みになっている。また、その画像とメッセージは、個人の写真を共有できるコミュニティーサイト、フリッカーで見ることもできる。「頭」は本部を離れ、様々な交通手段を使い個人宅などを行き来した。
“Refugia - new ways of living” Niklas Goldbach Courtesy Daniela Friebel
ドイツの新鋭映像作家として活躍するニクラス・ゴルトバッハは、今回のプロジェクトで初めて別ジャンルの作品として、ゲズントブルネン地区の空き地に、虚構の建設予定地の広告幕を設置した。あらわれることない夢のような超高層ビル。それはベルリンの壁崩壊後、西側の資本によって急速に再開発されたポツダム広場で目にするようなビル群だ。ゴルトバッハは、日々移り変わるベルリンの都市風景と変わることなく置き去りにされるこの地区の状況を皮肉る。
“Berliner Stimmen” Daniel Jolliffe Courtesy Daniela Friebel
カナダのダニエル・ジョリフは、赤と黄色のオブジェクトを後部に取り付けた自転車によるパフォーマンス、「ベルリーナの声」を行った。そのオブジェクトからは、公開されている電話番号に残される1分間のメッセージが流れる。ラップや政治的なスピーチ、ごくプライベートな告白、企業による宣伝などを放送しながら、ジョリフは3地区をまたいで自転車を走らせた。公共の電波を使って流される一挙一動、言葉に対して慎重さが求められる中、アートというスタイルを借りて、人は「自由」に各々の意見を表明できる。
会期中は、参加作家やキュレーター、美大生たちによるトークやディスカッションも頻繁に行われた。パブリックスペースで行われることによって強調される、アートの政治的なスタンスにも話は及ぶ。しかし、そこで常につきまとう「パブリックとは何か?」という根本的な問いに、彼らが答えを出そうとする姿は、社会における自分たちの立ち位置を探っているかのように見えた。今、アートが求めるもの、そして求められるものとは何か?「都市のインターフェース I ベルリン」は、単なる地域おこしとしての見世物ではなく、それぞれの作品がありとあらゆる手段で発言し得る好企画であった。
urban interface I berlin
ローラ・ベロフのフリッカー
作家ウェブサイト
ニクラス・ゴルトバッハのウェブサイト
ダニエル・ジョリフの「ベルリーナの声」
作家ウェブサイト
words:かないみき
2007-05-25 at 01:20 午前 in ワールド・レポート | Permalink
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