2007/04/09
「DEAD ALREADY」〜マンハッタン・ロウアー・イースト・サイドのオルタナティヴシーン
NYからライター塩崎浩子さんの4月のレポートです。
春の訪れとともに賑わいを見せるチェルシーの画廊街。でも今回はそんな喧噪を離れて、若いアーティストたちが運営するマンハッタンはロウアー・イースト・サイドの画廊Reena Spaulings Fine Artを紹介したい。
チャイナタウン中心部から東へ、観光客もまばらで中国語が飛び交う異世界。画廊は中華料理店の2階にあって、建物裏手の小さな扉には看板もなく最初はまず気づかない(のがいい)。同じロウアー・イースト・サイドからこの場所へ移転したと聞いて数カ月前に初めて訪れた時、てっきりまだ工事中なのだと勘違いした。天井は黒光りした木の梁がむき出しのまま、左手には前の店のものだろう古びた木のバーカウンター、汚れた壁や床の内側にコンテナ状に作られた床と白い壁、大きな窓には中国語の赤いサインが残っていた。
現在開催中の展覧会はKim Gordon(ソニック・ユースのメンバーでもあるキム・ゴードン) とJutta Koetherの共同企画による「DEAD ALREADY」。新しく出現しようとするものや、見えそうでまだ実体の見えないイメージに焦点を当てている。会期中にさまざまなライブパフォーマンスやゲストによる企画を行いながら進行していく、ライブペインティングならぬライブ展覧会。絵画や彫刻、ビデオなどが展示されているものの、それだけでは完結せず、むしろ舞台を生起させるツールとして機能しているように見える。
オープニングイベントはダンスワークショップとパフォーマンス、ダン・グラハムの70年代の作品フィルム上映(右上)、そしてソニック・ユースの前座で一躍有名になったノイズバンドMagik Markersのライブ(ボーカルの女の子の床にのたうち回りながらの高速轟音ギター!)と午後から夜まで続いた。今後もライブやパフォーマンス、フィルム上映などが行われる。
Reena Spaulings Fine Artに限らず、ロウアー・イースト・サイド周辺にはオルタナティヴ色の濃いアートスペースが目立つ。今年2月にグリニッチ・ビレッジに移転したが、永遠に解体工事中のような画廊スペースが当時話題を呼んだMaccarone、チャイナタウンの繁華街に位置しアーティストが運営に携わるCANADA、アーティストや批評家、美術史家、キュレーターらが共同運営する3年間の期間限定スペースOrchardなど。
こうした場所がマイナー志向や内輪受け、身内どうしの馴れ合いで終わることなく、多くの人々に支持され、ニューヨークタイムズで紹介されたり、国際的なアートフェアに出展したりしているのはニューヨークの底力と懐の深さだと思う。オルタナティヴ的な立場を標榜し、現在のアートシーンに対して何か得体の知れないものやむき出しの感情、批判的な態度を突き付ける。まさにすべてが既に死んでしまった(dead already)状況下で、胎動しつつあるものを提示しようという、意志の力が感じられる場所である。
words: 塩崎浩子
2007-04-09 at 07:39 午後 in ワールド・レポート | Permalink
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a014e885bb6e5970d014e88e73d8c970d
Listed below are links to weblogs that reference 「DEAD ALREADY」〜マンハッタン・ロウアー・イースト・サイドのオルタナティヴシーン: