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2007/01/09
手塚愛子展「薄い膜、地下の森」
遅ればせながら新年のお慶びを申し上げます。今年もよろしくお願いいたします。京都在住の作家、手塚愛子による新春にふさわしい大作が青山のスパイラルガーデンで展示されています。インド、ケルト、イスラム、日本の伝統的な文様を融合した図像を、5万本の毛糸を1本ずつ縫い付けて描いた直径7メートル、高さ2メートルの作品。地下茎のように垂れた毛糸の森のなかに入ることもできます。一人でしばらく入っていると、ふだん感じている時間感覚が消えていくような気がします。
手前から「縫う絵」「縦糸を引き抜くー五色」「縦糸を引き抜くー新しい量として」「余白と充満を同時にぶら下げる」
ゴブラン織の縦糸を引き抜いた作品や、正倉院の文様を刺繍しある線から反転させた「縫う絵」という過去の作品も関東では初公開。引き抜いた糸が鮮やかで生っぽく、混色する前の絵具を思わせます。一度描いた絵画をもとに戻すことはできませんが、織物を解体することによって、絵画が生成される過程での分裂と統合を逆廻しに考えるようなことができます。
静止していると同時に動きを感じさせるため、消失していく部分や流れ落ちて溜まった部分に妙な凄みが感じられます。
録画テープを速度を変えて巻き戻すうちに得体の知れないものが現れるような、ザーザーという音が聴こえるような。
「手芸という域を大きく外れた、役に立たないもの」と作家が言うように、どの作品にしてもこの手仕事は何に向っているのか、ふとわからなくなります。
ですが、今回の作品では特に、視覚的に現れるわずかな表面の下にある「地下の森」を歩くことで、作家が、人々の願いや呪いや美意識などが入り混じった文様ができるまでの道のりをたどるように手応えをもって制作していることがわかります。(観客が従順に作品の意図に乗れるとは限らないですが)
例えばケルトの文様と日本の丸紋が似ていることなどを知ると、言葉とは別のところでも人は交流できるはずだよなあと思えてもきます。ほんとの起源まではたどれないかもしれないけれど、この始まりはなんだったっけ? と立ち返ってみることはできるはずだと。
惜しまれるのは(作家も残念がっていたけど)重力によって表面がピンと張られていないことで、もしそれが可能であればたぶんもっと人々の意志が見えるような気がします。でも相当頑張って吊ってもいます。
なお、府中市美術館にて、1/10〜4/22の期間中に公開制作「気配の縫合ー名前の前に」も行われます。2月の滞在制作の頃に出かけてみては。
2007年1月5日(金)〜18日(木)
スパイラルガーデン
11:00〜20:00
TEL.03-3498-1171
words:白坂ゆり
2007-01-09 at 02:50 午前 in 展覧会レポート | Permalink
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