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2003/03/28
野田 秀樹「Red Demon」in UK
Young Vic劇場
photographer:Keith Pattison
■野田秀樹の作・演出・出演の『Red Demon』がロンドンのYoung Vic で上演された(2月22日まで)。野田は過去数年にわたり計4回、現地の役者、スタッフとともにイギリス演劇界の中で、本公演のための ワークショップを積み重ねた。
■私は、このロンドンワークショップのコーディネイターとして現場に立ち合った。野田が「一方通行的な流れの"文化交流"ではなく文化は混在するべきものである」という理論をいかに実践していったか。昨年4月に行われた、最終ワークショップの様子を中心に報告したい。
■ワークショップ参加者は、野田が個々に面接して選んだ役者約8人。身体をならし、 すぐ脚本読みがはじまる。参加者の出身は様々で、公用語の英語も、イタリア、スペ イン、日本、そして英国出身者でさえマンチェスター、コックニーと 多様なアクセ ントでとびかう。野田はその違いに興味をもち、演出の材料として早速メモをとる。
■演出の解釈をめぐり、役者同士が緊迫した討論をはじめたときは、稽古を中断し、時間をかけて全員で討論する。野田は自分の意見を押し付けたりはしない。英国では、 少なくともこのワークショップでは、役者は演出家に意見をはっきりと伝える。結果、 そのままの時もあれば、野田が新しい演出を提示する時もある。役者は演じる過程で、 野田の演出がいかに根拠をもっているものかを実感し、彼に対する強い信頼が生まれ る。役者たちは「お茶の休憩さえない」と苦笑いしながら、野田の知的な勘、忍耐力、 体力、集中力、ユーモアに、いつの間にかすっかり彼のペースにはまっていった。
■最終日10日目。プロの演劇関係者に通し芝居を見せる招待日。上演に耐えうる作品か見定める、厳しい視線のなか、結果は大成功。演劇関係者の中には涙を浮かべる人すらいた。後のパブでも、野田と役者は演劇談義でもりあがる。全員本当に芝居が好きなのだ。
■本公演を開催することになったYoung Vicは上演を申し出た劇場のひとつ。1970年代に有志たちの募金活動によってオープンしたこの劇場は、ピーター・ブルックのロンドンでの上演劇場でもある。芝居を愛してやまない野田のロンドンデビューにはぴっ たりだと思えた。
■2003年2月3日、ついに本公演初日の幕が開いた。出演者8人のうち、ワークショッ プからの参加者は3人。全国紙の評は「どこにもあり得る話しでありながら曖昧で, 訴えるものが希薄だ」という論調がほぼ主流だった。野田の演出と役者のリズムに軋 みが生じているように私は感じた。
■しかしここでは、上演とその過程を通して、野田が体現しようとしたことの意義を考えてみたい。英国では日常、多様なアクセントやいいまわしの英語が、移民を中心に話されている。政府は、多民族文化を新しい英国の旗印にさえしている。しかし"英国演劇界"には、このような英語を、英国演劇の"言葉"としては認めない風潮が存在する。そこでは異なるものへの嫌悪が、無視という名の差別に微妙につながる。英国社会で"異なる言葉"を話す者として、野田は敏感にその矛盾を感じ取ったに違いない。シンプルな脚本で、正直にこの矛盾を問題提起している。
■また、日本演劇の国際交流というと、日本で仕込み海外で上演するという、やや一方通行的な形式が多いが、野田は単身、英国のシステムの中に飛び込み、現地の劇場関係者と共に一からすべてを作り上げた。このチャレンジは、日英の演劇界の可能性を広げただけでなく、"次世代の新しい混在"ともいえる文化交流の可能性を提示したといえよう。今回地ならしされた場所に、次に何が構築され、どのような地図が描かれていくのかぜひ心待ちにしたいと思う。
words : 西原 佐季子
United Kingdom -14 March 2003 relies
photographer:Keith Pattison
ワークショップ 2002年4月 London
(於:American Church) 以下2点とも
ゲストリポーター: 西原 佐季子(Visiting Arts プロジェクト・ディレクター)
Corporate Galleryのマネジメント、海外美術展を国内で運営する仕事を経て英国へ。Goldsmiths College で社会学修士修了後、Warwick University にて文化政策にて同じく修士習得。英国政府文化機関のひとつであるVisiting Arts 勤務。国内外に文化関係の情報提供を行う。ロンドン在住。
2003-03-28 at 06:37 午前 in ワールド・レポート | Permalink
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