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2000/03/14

Vol.19 池田朗子(Akiko Ikeda)

eye20_ikeda

池田朗子のインスタレーション作品は、同じ形、それも豆や舟形、動物の耳といったような具体的なイメージをもつ形が連続して床に並んでいたりする。豆や船に意味があるのではない。ときどき「鏡」を用いることがある。それは、鏡にうつされるものは虚像であっても、本物とその虚像の間に振り子が行ったり来たりする間のものを感じることができるから魅力があるのだそうだ。
3月14日から個展を控え、今年はロンドンの大学院に留学の決まっている池田朗子とはどんなアーティストなのか、素顔に迫ってみた。

●学部生時代から個展をやるなど、わりと早い時期から発表活動をしていますね。
■大学で彫刻を専攻していたのですが、とてもアカデミックな教育カリキュラムになっていたんです。でも、受験のために通っていたアトリエではコンテンポラリーな作品をつくっている人たちについていたので、大学に入ってから、授業などに違和感を感じていました。だから、もっと自由にやっている版画や造形実験など他の研究室によく出入りしていました。でも、基礎としていろんなことを知る必要もあると思い籍を置く彫刻コースの授業の課題もしっかりやっていました(笑)。画廊をまわったり、制作したりと4年間びっしりつめてやりました。

●大学院から京都市立芸術大学に行って、何か変化がありましたか?
■まわりから「何をしたいの?」ときかれて、何がしたかったのかわからなくなってしまい…。それまで、そういう質問を浴びせられることがなかったし。はじめの一年間は何もできなくて、ただただ模索する毎日でした。みられること、というか、みる人をすごく意識するようになったんです。

●次第に考え方とかが変わったり、何かがわかってきたりしましたか?
■『ジャックのテント』という作品を、大学院の一年の終わりの進級展でつくろうとしたときに。空間を仕切ることで、見えるものと、見えないものがあることがわかったんです。少しずつ自分のやりたい方向がみえてきました。自信も取り戻せたり、なぜ人にみせるのかとか…。自分の好きなこと、物語りのことなど。どういうスタンスをとっていけばいいのか、そんなことも次第に自分のなかで整理されてきました。とにかく、大学院の2年のときに『ジャックのテント2』という作品を発表するまでは試行錯誤の連続でした。

●自分のやっていることに手ごたえを感じはじめたのはいつ頃ですか?
■『Where is the captain ?』という作品は、影や鏡への反射をつかっているんですが。この作品をつくるまえに「これだ、この感じだ」と思えた瞬間がありました。ブルーの背景を塗ったところに、白で台形のひっくり返したかたちに四角をのせただけの船のかたちの絵を描いたんです。切り絵のような感じに平ッたい絵を。そのときに“フラット・スペース”という言葉が頭に浮かびました。とても単純な絵なんですが、そこに奥行きを見ている自分がいました。ケント紙に船型を切り抜いて、起き上がらせていく仕事を床に無数にやってゆき。その延長線上に、光りと鏡で、光りの反射と影でつくる作品をつくりました。影が現れる位置までの距離によっては、元のものより大きな影もできますよね。そこにつくっている私自身も物語りを与えることができるし、みる人も同じだと思うんです。どんどん楽しいことが連鎖して出来上がっていくようになりました。鏡にうつっているものは、本物ではなくて虚像だけど、本物とうつりこんだものの間に振り子の行き来する感じが生まれる。

●鏡をよく使っていますね。旅館でやった展覧会(当世物見遊山)のときは洗面所やお風呂場に人形(ヒトガタ)の石鹸と鏡に王冠と「Are you princess?」と文字を反転させたシールを張ったりもしていましたよね。
■みる人と作品と自分(作者)の3者の関係を意識しているんですが。吉水(展覧会をやった旅館の名)は日常生活に使われている空間で、画廊というのはみるために用意された空間ですよね。在るのに見えないものが、それぞれに出てくるんです。そこを訪れる人のスタンスによって見えるものが違ってくるじゃないですか。みるシテュエーションによっても“気づく”ものが変わってくる。“気づく”ということが面白いと思っているんです。作品とは限らなくていいかもしれないんですが、何かに気づきたい人がいるわけですよね。作品のなかで、“気づくこと”“気づかないこと”を展開させていきたいと思っています。

●最近は写真をよく撮っているんですか?
■写真で作品をつくろうといということではなくて、写真はドローイングを描くような感じで撮っているんです。3月14日から京都で個展をするんですが、個展と並行して別のスペースでドローイング展も行ないます。展覧会の構想も作品についてもほぼ完成しているんですが。見に来て気づいてもらえなくなると、残念なので、展覧会の作品内容は全部は話しませんが。私が感じている曖昧なものを曖昧なまま伝えたいと思っています。見る人がそこでどう感じてくれるか予想がつかないですが(笑)。

●個展のあとの予定としてはチェルシー(ロンドンの美術系大学院)に留学するそうですが。
■学生時代からヨーロッパのアートシーンへの憧れがありました。大学のシステムも面白いと思ったし、大学院を一度終えてはいますが、作家として活動してゆくために、まだいろんなことをやっておきたい。この先も続けて制作活動をしてゆくために、一旦、外に出て次の展開を考えるのもいい時期かと思っています。それに、私のミーハーな気分を満足させるのにもロンドンはいいかと思いました(笑)。

●個展を楽しみにしていますね。
■是非、見に来てください。

個展の予定
■池田朗子個展 throughing the dog
2000年3月14日~19日
アートスペース虹(京都 tel.075-761-9238)
■池田朗子ドローイング展
2000年3月14日~19日
Galerie Weissraum(京都 tel.075-761-8565)

words:原久子


eye20_01ジャックのテント2
(1996年、カノーヴァン・名古屋)

eye20_02ジャックのテント2
(1996年、カノーヴァン・名古屋)

eye20_03ファーマーズビュー
(1997年、ギャラリーそわか・京都)

eye20_04house-house-house
(1997年、ギャラリーギャラリー・京都)

eye20_05Where is the captain ?(写真/部分)
(1998年、ギャラリーそわか・京都)

eye20_06
Where is the captain ?(床にインスタレーション=ケント紙/部分)
(1998年、ギャラリーそわか・京都)

eye20_07Where is the captain ?
(床にインスタレーション、壁のアーチ型は鏡/部分)
(1998年、ギャラリーそわか・京都)

eye20_08Where is the captain ?(部分)
(1998年、ギャラリーそわか・京都)

eye20_09Sound Garden/写真によるドローイング(1999年)


池田朗子
(Akiko Ikeda)

1972年 岐阜市生まれ
1995年 名古屋芸術大学卒業
1997年 京都市立芸術大学大学院美術研究科修了
個展
1993年 オルガン教室―縦笛の順番を待つのが怖い
 (カノーヴァン・名古屋)
オルガン教室―縦笛の順番を待つのが怖い
 (クロッキー・岐阜)
おしゃべり機械 尻尾の欲しい本当の理由
 (名古屋市市政資料館)
1996年 ジャックのテント2(カノーヴァン・名古屋)
1997年 ファーマーズビュー(ギャラリーそわか・京都)
house-house-house(ギャラリーギャラリー・京都)
1998年 Where is the captain ?(ギャラリーそわか・京都)
1999年 Airplane a go go (N-mark・名古屋)
グループ展
1996年 The LIBRARY(ギャラリーそわか・京都)
1999年 当世物見遊山(お宿「吉水」・京都)

2000-03-14 at 08:36 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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